お母さんが悩んでおられる間、私もずっと悩んでいました。
ずっとたこちゃんを診てきた私にとっても
便が出ないことで食べられないでいるたこちゃんを、
ただ見ているだけなんて、とてもできないことでした。
非常にリスクの高い、そして、意味の深い手術です。
もし、ただ痛い思いだけさせて亡くならせることになったら…と思うと、
獣医師として耐え難いものがありました。
私だって、お母さんの悲しむ顔も、たこちゃんの苦しむ姿も見たくはない…
たこちゃんが、手術に耐えてくれるだろうか?
癌による悪液質や、腸の腫瘍のせいで、
低たんぱく血症や敗血症に陥らないだろうか?
そのせいで、縫合部の癒合不全が起こらないだろうか?
腹膜炎が起こらないだろうか?
結果、術後の経過が悪くて苦しめることにならないだろうか?
獣医師として、楽観的に臨むわけにはいきません。
考えうる限りの悪いことを考えて、回避しなければなりません。
そのために、手術前に行なったたこちゃんの血液検査。
結果はなんと!
タンパク質の値も正常で、貧血もなく、
肝臓も腎臓もしっかり働いていて…とてもきれいなものでした。
半年も癌を抱えて生きてきたのに…
細いたこちゃんの身体が
立派に生きようとしていることを知って、
感動すら覚えました。
私にも、お母さんと同じように、
たこちゃんが「手術して食べられるようにして!」
といっているように思えました。
病院のスタッフも皆、同じ気持ちでした。
「できるだけ早く終われるように、
しっかりサポ-トします!
よく決断されましたね・・・。
オペ成功させて、
食べるようになってほしいですね!」
手術前日、
助手をしてくれる深来が
メ-ルで私を支えてくれます。
2時間にわたる手術でした。
たこちゃんの腸を塞いでいた腫瘍を
周りの血管を結紮して慎重に取り除き、
腸の断端どうしを細かく縫い合わせ、
癒合不全回避のため、
大網という膜を縫合部に縫いつけます。
麻酔中のたこちゃんは、
心電図も、血圧も、血中酸素濃度も・・・
全て予想以上に安定していて、
私たちに全てゆだねてくれているようでした。
そして、手術は無事成功しました。
術後は、流動食を少しずつ回数を分けて与えます。
食べてくれるかな…?
皆が見守る中・・・
「食べました~~!!」と黒川さん。
お皿がピカピカになるくらいペロッと…足りないくらいに…
みんなで、「すごい~~!!」「うれしい・・・(涙)」
この半年、ずっと食べが細くてムラがあり、
閉塞してからは全く食べなかったたこちゃんが、
手術の翌日から食べてくれるなんて…!!!!
面会に来られたお母さんも、
「決心してよかった、本当に本当に先生に感謝します。」
と、たこちゃんを見て、目を細められる…。
私たちは、決心して下さったお母さんと、
頑張ってくれたたこちゃんに感謝です。
でも、腫瘍の病理結果は、
残念ながら良いものではありませんでした。
お母さんは、「それは覚悟していましたから。」
とおっしゃいました。
たこちゃんとお母さんの病気との闘いは、これからも続きます。
でも、生きるということは、長さだけじゃない。
そう教えてくれたたこちゃんとお母さんです。
追伸
今日、待合でたこちゃんのお母さんとお友達になられた、
以前ブログにも登場したチャ-ちゃんのお母さんに、
「先生~、たこちゃんは大丈夫なんですか~?
つづく…ってなってて、エエ~!!って思って…!!」
って叱られました(笑)
これを読んで下さっている皆さん、
たこちゃんのこと、心配して下さってありがとうございます。
たこちゃんを励ますコメントを下さったもかままさんも
本当にありがとうございました。
皆さんの励みや支えになれば・・・と
たこちゃんのことをブログに書くことを許して下さったお母さんも、
皆さんの言葉できっと勇気をもらっておられることと思います。
たこちゃんは、抜糸もすんで、我が家に帰り、
よく食べて、ウンチも出て、
お母さんの食べているフレンチト-ストを
「ちょ~だいにゃあ~ん」とおねだりする、
いつもの日常を穏やかに過ごしています。
体重も、手術前より300gも増えました。